こんにちは
A1班とB3班を受け持っている篠塚です。
このクロールの話、前回の記事「クロールを上手に泳ぐには、バタ足が大切…という話(その2)」ではバタ足の練習のポイントについてご説明致しました。
今回は腕の動作についてです。
腕のかきの動作は単純化して教える
腕の動作と一言で書いてしまいましたが、生徒の年齢や泳力に応じて教える内容はいくらか異なります。今回の記事では、初めてクロールにチャレンジする小学生の生徒にどの様に指導するかを書きましょう。
腕の動作は、水中の動作と水上の動作とに分かれます。小学生低学年(幼稚園生含)の場合、四肢筋より躯幹筋の発達の度合いが進んでいます。簡単に申せば、手足の筋肉が身体を支えている筋肉より少し弱い傾向にある、ということです。そのため、動作をできるだけ単純化して指導するのが良いと感じています。
陸上での練習
クロールの腕の動作の練習を行う時、最初は立った状態で動作を学びます。フリッパーの場合、クロールの初心者のクラスは高さ40cmの赤台がプールに設置されている場所で練習を行うので、その赤台に立つ生徒は腰から上が水上に出ます。そのため、陸上といっても上半身の動作の練習であれば赤台の上で練習することが多いです。
そこで教えるのが、「大きく腕を回す」という動作です。
- 両腕を揃えて前に伸ばす。両手の間隔は肩幅程度。
- 顎とおへそを通るライン(身体の真ん中あたり)を手が通る様に動かします。
- おへそを過ぎ、腰の下から太ももにかけて手は再び外側に向かって動きます。
- 手のひらが太ももに触るころに胸を開くイメージで肩を中心に腕を身体の後方に回します。
- 身体の斜め後方を腕を大きく回し前に伸ばしてある腕に肩幅くらいの間隔で揃えます。
これが片腕の動作です。これを何回か繰り返し、その後反対の腕でも同じ動作の練習を行います。
腕のかきの動作は下に示した「双曲線」のイメージです。もちろん、もう少し真っ直ぐに書く距離が増えますが、基本は肩幅〜中央〜外側へ、と動きます。
<双曲線(Wikipediaから引用)>
2の動作で、手の平がまっすぐ後方に動く際は、手に水を当てるという感覚が必要ですが、3の動作では手の平が身体の幾分向いても問題がありません。ただ、手で水を切ってしまうような動作になる(太ももに小指からタッチしてしまう)生徒に対しては、太ももに手の平でタッチするように意識付けすると良いでしょう。
4の動作では腕の動作だけでなく身体のローリングが加わります。ローリングはそのタイミングが大切です。手がおへその前を過ぎた時点で腰が先導して身体が開いてしまう生徒には腕をかききる事を意識させる様にすると良いでしょう。それと、ローリングは肩だけを動かすのではなく腰も回すと(腰の動きは肩の半分程度)自然な動きになると思います。
手がお椀型になったり、リカバリーの際に手首が曲がったり手の平が返ったり…という具合に手首や手の平に力が入ってしまう生徒には、力いっぱい手を握り、力いっぱい手を開く動作を何度か繰り返したのちに柔らかく手を開く動作を感じて貰います。その上で、1および5の動作で手を肩幅に揃える時は親指&人差し指から、4の動作で手が水上に抜け出る時は小指からを意識させると上手く行くはずです。
片手での動作がスムーズに行える様になったら、両手の動作を練習します。身体のローリングと腕の動作とが違和感なく同期していれば水中の練習に移ります。
水中での練習
蹴伸びバタ足をしながら片手のみの腕の動作を行います。距離は7mくらい大丈夫です。この片手の練習は「泳ぎの型」を習得させるには極めて有効です。伸びやかに大きく腕が回せているか?が大切なポイントです。太ももまでしっかりかききる様にと注意はしますが、かきのフィニッシュで水を水上に盛大に飛ばしている様であったら、その動作は下半身を沈める作用があるので、小指からスッと抜き上げる様に指導します。
片手の動作がスムーズに行える様になったら、両手を動かします。身体のローリングが腕の動きと同期している点に注目しましょう。それと、この段階では、腕の動きを確認しながら(しっかりとお腹の前をかいているか?)泳ぐことが大切なので、キャッチアップのクロールで練習をするのが良いでしょう。
この段階で腕のかきがしっかりと行えていれば、面かぶりクロール(呼吸なしのクロール)で10〜12m程度は泳げる様になっているはずです。そこまで泳げれば、いよいよクロールの呼吸の動作に入ります。
余談:教えすぎるインストラクターは水泳技術向上の邪魔
面かぶりクロールの練習の際、インストラクターが補助する場合は、両手を生徒の手の平に添えつつ、かき出すタイミングで生徒の動かす手を離す(かき出しのタイミングを教える)だけにするのが良いと考えます。
泳いでいるときに、腕を持ってグイッと回したくなりますが…それは、実は「百害あって一利無し」です。腕の動作を修正したいのであれば、生徒が自分自身で問題点を感じられる状態で指導するのが望ましいでしょう。
生徒の水泳技術の向上は、生徒の筋肉から動きを引き出せるか否かに掛かっています。それは、生徒に対して型にハマった動作を押し付けることではありません。生徒に対しては最低限の手助け、助言、注意喚起による指導により、生徒自らが考えて泳ぐことが大切です。
また、生徒の運動能力の発育発達の進み方は、性差、年齢差、個人差が見られます。
わかりやすい例を挙げれば、
- 男子:走る・投げる・跳ぶといった様な筋力を伴う動作の発達が早い
- 女子:バランス能力やスキップなどの神経支配能力に基づく動作の発達が早い
という様に性別により運動能力の発達時期に差があります。
そのため、すべての生徒に対して画一的に指導したり、同じように生徒に等しく技術向上を期待するのは、非常に難しいことです。水泳に限らず運動指導は、子ども一人一人の個人差を尊重し、個々の子どもに向き合いながらより良い方法や援助を模索していくことが重要です。
如何でしたか。
今回は、バタ足を習得した生徒たちがいよいよクロールを始める際に学ぶ呼吸なしのクロール(面かぶりクロール)に必要な腕のかきに付いて「クロールを上手に泳ぐには、腕のかきが推進力の源泉となる…という話(その3)」と題して記事を書きました。
クロールにとっての主たる推進力は腕のかきです。今までのバタ足だけでなく、腕の動作で水をかくことによってグイグイと進める様になるため、生徒にとっては新鮮で楽しい動作であると思います。
本稿の次回では、クロールの呼吸についての記事を書く予定です。
また、記事の内容に関する疑問・質問・ご意見などがあれば、メニューの「お問い合わせ」または最下段にある「コメントを書き込む」から何なりとメッセージを頂ければ幸いです。小生の判る範囲でお答え申し上げます。
今回の記事はここまでです。
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